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■【ルカ】
00〜序章
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※『ルカ』は吸血鬼ものですので、吸血鬼が苦手な方、
嫌いな方はご遠慮ください。
『ルカ』は現在休止中です。
「うわぁ、やめてよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。はははは、サンキューな勇気」
「え? うわぁあ、やめてよ!要くん!」
向かいにいた都雅が首をかしげているのが目に入って、俺が手を止めると、その隙に勇気に逃げられる。
「どうした、都雅」
「いや、随分と簡単に言うなと思って」
勇気の肩がビクッと震えた。一瞬にして顔がこわばる。
「勇気は俺を元気付けようとして言ってくれてんだからさ。今のところはいいんじゃねぇの?これから色々問題はでてくるだろうけど。俺がこのまま意気消沈してるよりはマシだろが」
そういうと、都雅はにっこりと笑った。
少しドキッとする笑い方だった。
「なるほどね、了解。そういう言い方もあるってことか」
「……もしかして今まで誰かを元気付けたことない…とか」
「ん〜、どうだろうね」
「……それで、良く彼女できたな」
「懐の広い彼女なんでね」
ふふふと意味ありげに都雅は笑った。
「あ!やっぱ、年上だろ!」
「残念、はずれ」
「え〜?」
「勇気は知ってるのか?」
ビクッとなった勇気だったが、都雅が笑っているのでホッとしたようだった。すぐに頬を緩めて微笑む。
「えっとね、詳しくは知らないんだけど、一緒に歩いているところを見たことあるよ。あれは多分、近くの公立の制服だと思う」
「ほぉ…ってことは年下?」
俺がにやりと笑って見せると、都雅は苦笑して肩をすくめる。
「極端なものの考え方は、後々困ることになるよ。ちなみに、同級生…ん、学校が違うから同い年の方が正解かな?」
「へぇ…同い年ね。意外。でもさ、俺のことに巻き込まれたら会えないんじゃないか?」
都雅は少し口の端をあげて笑う。
「まぁね。でも、説明するから。友達を救うためだってね」
「へぇ。文句いわないのか」
「さっき言ったろう?懐の深い女の子なんだよ」
「ほほぅ、興味がありますな」
俺がそう言って、都雅の顔を見ると一瞬、目が光ったように見えた。
「いずれ会えるよ。でもね船迫 要くん。手を出そうと思わないことだよ」
と、にっこり…。
俺と勇気絶句。
こえぇぇ。
今の微笑みは今までの中で一番怖い微笑み。
絶対、何もしませんと心に誓った俺だった。
つづく
「春休みに入ったら、勇気は学校へ潜入だろ。俺は勉強…うぅん、つまらない」
「そういう問題じゃないでしょ」
都雅が苦笑して俺にクッションを軽く投げてきた。
「そんなに、つまらないなら楽しいことしようか?」
「楽しいこと!?何だそれ!」
俺がわくわくしてクッションを投げ返すと、すぐに都雅も投げ返してきて、にっこりと悪魔の微笑み。
「学校の勉強」
俺はクッションを抱きしめたままベッドへと倒れこんだ。
「勉強が、楽しいことかよ」
「楽しいでしょ。問題解けると」
なるほど、頭の良いやつはこうしてできるわけだ。
俺がベッドの上で唸っていると、勇気が隣で小さく笑った。
「どうした?」
「だって、要くん。犬みたいに唸るんだもん」
「俺は昔から勉強は嫌いなんだよ」
「昔からっていつから?」
「え…」
俺は思い起こせる昔を、思い出そうと記憶をたどったが出てこなかった。出てこないどころか、ひとつも何も思い出せない。
「……あれ? これって記憶喪失?」
「え? だって以前20代だって言ってなかった?」
「おうよ」
「20何歳?」
「………」
確か後半だった…はず。と思ったがそれも確かではなかった。名前とあやふやな年齢しか覚えていないのだ。
「この町に来たことがないのは確かなはずだけど、実際何処に住んでたかは覚えてない…」
俺がそういうと、都雅の目が細められた。
「それは、コレクターに記憶を奪われたのかもしれないね」
「……、記憶をコレクションするって言ってたもんね」
おいおい、それじゃぁ俺の記憶は戻らないのかよ。
がっくりと肩を落としていると、めずらしく勇気が声を張り上げた。
「でもさ!取り返せばいいんでしょう? 身体も記憶も取り戻そうよ!ね!」
「……おう!」
俺は起き上がって、勇気の頭に手を載せて髪の毛をグシャグシャとかきまわした。
つづく
「キーンという音ですか?」
勇気が確信に似た瞳でラゴ様を見つめる。
「そう、それに近い。…聞こえるのだね?」
勇気は頷いた。
「小さい頃から、聞こえてました。病院に行っても原因不明で、直らなかったんです。ただ、聞こえるのは本当に小さな音で、日常生活にはそんなに支障がなかったし、時々だったので。そのままにしてましたけど」
俺は驚いて勇気の顔をしげしげと見つめてしまった。
「それは、魂と器どちらかの音だろうね。御互いに呼び合うように鳴るのだ」
「と、言う事は。この音が聞こえる時って、肉体から離れた魂があるときってことですか」
「そうだね。意外に器から気づかないうちに魂が抜けている人が多いのだ。夢を見ていると思っているだろうが」
まさに幽体離脱ってことか。
「さて、そろそろ私は帰るとしよう。青空はどうするね?」
「ええと…玉繭に報告する事もあるので、僕も帰ることにします。ほら行くよ大治郎」
「にゃ? 連絡の仕方を教えないのかい?」
青空はうっかりしていたらしく「あぁ!」と大きな声で言った後、声を出してしまった事に自分で驚いていた。
「すいません。ええと…これ。渡しておきます」
青空が俺にくれた物は、ホイッスルだった。銀メッキのやつ。
俺は思いっきり吹いてみた。
ピーッと音がするかと思いきや、何の音もしない。その代わりに大治郎が飛び上がった。
「そんなに吹かなくても聞こえてらぁ!」
「え?」
「それは大治郎を呼ぶ笛なんです。小さく吹いても聞こえますから」
「そうなんだ」
「ああ…びっくりした。今度は静かに吹いとくれよ」
大治郎は身体をブルルと震わせる。
「ごめんごめん」
都雅が俺の手からホイッスルを受け取って、じっと眺めた。
「犬笛とは違うんだね」
「そうですね。大治郎だけに聞こえる…と言うと大げさになるかもしれないですけど。他の動物達にも聞こえるのですが、自分を呼んでいる音では無いと分かるんです」
「へぇ」
三人でその笛を眺めていると、窓を開ける音がした。
「それでは失礼するよ」
ラゴ様が先に窓から出て行く。
まるで透明な屋根に乗っているかのように、空中に立っていた。
「情報が入り次第、こちらからも連絡しますね。それでは失礼します」
青空は以前、病院で見たように大治郎の尻尾に掴まった。
大治郎がふわりと浮くと同時に、青空の身体も一緒に浮き上がっていく。
窓から二人と一匹が上空に消えてゆくのを見ていた俺たちは、首が痛くなって見上げるのを止めた。
そして窓を閉めた途端に、俺は今頃思い出したのだった。
「あっ!」
「なっ…何?」
「文句言うの忘れてた」
学年のことをきちんと説明してくれなかった事を、言おうとしていたのを忘れていた。
「青空さんだって、忙しいんだよ。許してあげたら?」
勇気の言葉に俺は深いため息をついて、頷いた。
仕方ない。
今回だけは許そう。
つづく
「この糸は沢山の集合が縒(よ)られたものなので、その全てが切られない限り、糸が切られたことにはならないのです。一本だけでも繋がっていれば、生きている。切れた場合は魂に巻きついて次第に色をなくしていきます。三刀屋さんを見る限り、糸は巻きついていないので、まだ繋がっています。その繋がっている糸を伝って見つけられた者が、解してばらばらにしたのでしょう」
「解されて見えないのに、巻きついていないの分かるの?」
都雅がすかさず言うと、青空は都雅に向かって頷いた。
「糸は自分で縒る性質を持っています。解されても自分でもとに戻るはずなのですが、今回の場合は多分何かで一本一本を抑えているのでしょう」
「そこに、コレクターが関わってくるのだろうね。沢山のコレクターがその一本一本を掴まえているのではないかな?」
ラゴ様が自分の金色の髪を、まるで気の糸のように指でつまみ上げる。
「そうすると、細すぎて見えなくなります。譬(たと)えると蜘蛛の糸のような感じでしょうか」
俺たち三人は頷いた。
蜘蛛の糸と言われれば、何となく分かる。
「それじゃ、俺の魂についた気をこう…糸を手繰るようにしていけば、見つかるんじゃないのか?」
俺はラゴ様の髪を引っ張ってそう言った。いや、引っ張ったつもりだったけど、ラゴ様の頭は微動だにしなかった。
「あれ?」
ラゴ様は小さく笑う。
俺の指には何も挟まってはいなかった。
「あれれ…」
「そこに色々複雑な問題が絡んでくるのだよ」
「複雑な問題って?」
「まず解されてしまうと、殆どの者には見えないし。見えても止まっているわけではないので見失いやすい。さらに本人以外では触れられないものなのだ」
都雅が眉を寄せて首を傾げた。
「矛盾が発生してない? 本人しか触れられないのに、何故解されたりコレクターが押さえていられたりするの」
「たった一つだけ例外があるのだよ」
ラゴ様は右手の人差し指を俺たちに見せるように突き出した。
「例外?」
「そう。血だ」
「血…?」
「血って…俺の?」
「そうです。三刀屋さん本人の血で掴む事が出来るのです。ですが、我々は器を傷つける事は出来ません」
「ああ…それで人間と協力せざるを得ないってことなんだ…」
都雅が呟くと、青空は目を閉じながら頷いた。
「今回は人間も器を必要としているため、速やかに協定が結ばれたのでしょう」
「待ってください。本人は掴む事が出来るなら、要くんが自分で掴みながら探せるんじゃないですか?」
勇気がパッと明るい顔になって言ったが、ラゴ様も青空も、ついでに大治郎も首を横に振った。
「大事な事を忘れている。残念ながら、彼は糸が見えない」
「見えていないため、触れている事に気づかないのです」
二人の言葉に、俺と勇気はがっくりと肩を落とした。
「それじゃあさ。俺だと見つけられるかもしれないって言った理由は?」
「第六感…です」
「だいろっかん…? って何?」
「人間が感じる感覚、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感があります。そのどれでもない。所謂(いわゆる)、勘というものです」
勘に頼れと?
半分呆れて、俺は口を開けっ放しだった。
「勘をバカにしてはいけない。多くの雑多な情報を排除すれば、自分の器が近くにあるかどうか分かるはずだ」
「雑多な情報…?」
「あの〜」
大治郎がラゴ様の腕の中で、遮(さえぎ)るように言ったので全員が大治郎に注目した。
「どうしたの? 大治郎」
「ひとつ。おもいついだんだけど」
「うん」
「そこの坊や使えないかなぁ?」
「坊や?」
大治郎の視線は勇気の方を向いていた。
「…ぼ、僕?」
「かなり耳が良いんだよね。もしかしたら…、聞こえるかもしれないよ」
ラゴ様と青空は顔を見合わせる。
「本当?」
「だってかなり騒がしかった上に、離れた場所で囁いたおいらの声を、聞き取ったくらいだからさ」
「何だと?」
「それは…可能性があるかもしれませんね」
「ちょっと、二人と一匹で話を進めないでくれないか」
俺が声をかけると、はっとしたようにこちらを向いた。
「何が聞こえるっていうのか説明してくれ」
「すいません…えっと」
「その説明は私がしよう。前に魂は音を奏でると言ったのを覚えているかな?」
「ああ、ええ。はい」
「そう。魂は音を奏でる。それはもちろん魂玉に入った時なのだが、それに共鳴するように、微弱ながら器も音を出しているのだよ。微かに聞こえるのだ。耳鳴りの音に近いがね」
「……は?」
「同じ音は一つとしてないといわれている。つまり、その音を聞き、覚えることができれば、見つける確立が高くなるというわけだね」
頭がグルグルしてきたぞ。
意味がわからねぇ。
48へつづく
「自宅待機しかない」
がっくり…。
俺は立ち上がると「ぐあーっ」と叫びながら、都雅のベッドにダイブした。
大治郎がつぶされないようにとピョンと飛んだ。
身体が何度か跳ねた後、俺は身体から力を抜く。
「俺にすることは無いのかよ」
「そうだ。校舎は勇気に行ってもらおう。先輩から変わった事なんかを教えてもらえるだろう?」
都雅がそう言ったので、俺は身体を起こした。
「んで、その間。俺達は何してるんだよ?」
都雅はにこっと笑う。
「勉強」
「……は?」
「べ・ん・きょ・う」
「いや…スタッカートつけて言わなくても分かるけど…えっ…。学校の?」
「違う違う。コレクターや魂の事について…だよ。勇気には後で説明する事にして、分担した方が良いと思う。本当はオレも別な事をした方が良いとは思うけど、要をほっとくと何をするか分からないし」
まぁ…短時間で俺のことをよくわかっていらっしゃる。
「二人で憶えたほうが、勇気に補足しやすいだろ?」
「確かに」
俺が頷くと、都雅は勇気の方を振り向く。
「一人で校舎に行く事になるけど。構わない?」
「……う、うん。大丈夫だよ」
右手の拳をギュッと握って、勇気は二度頷いた。
「そうしてもらえると助かるなぁ。おいらと同じような仕事をしている仲間が、帰って来ないんじゃ迂闊に入れないって青空が言うからさ」
「ぼ、僕が入っても大丈夫だよね」
「おっ、心配かい? やっぱりここはおいらの出番かな」
ベッドを俺に占領されて、床に降りていた大治郎がそう言うと、青空が大治郎の首の後ろ辺りを持ち上げる。
「大治郎。だめだって言ったろう?」
「えー。おいらは行ってみたいんだけど…なぁ」
上目遣いで青空に言った大治郎は、厳しい顔の青空を見て視線を逸らした。
「青空は怒ると怖いから…やめる」
俺は思わず吹き出してしまい、それにつられたかの様に都雅や勇気も笑った。
「大治郎はすぐに危険な場所に行きたがるんだから」
「義侠心だよ義侠心」
「違うでしょう。そういうのを無謀って言うんだよ」
青空は大治郎の顔を自分の方に向けると、怖い顔をして見せた。
「……分かってるよ…分かってるってば。ちょっと…言ってみただけじゃないかぁ」
「青空。もうそれくらいで許してあげなさい」
そう言ってラゴ様は大治郎を抱き上げた。
仕方なさそうに手を離した青空は、ため息をつく。
「へへへ…ありがとうございます、ラゴ様」
「大治郎も少しは自重しなさい」
ラゴ様の膝の上でしゅーんとうつむいた大治郎は、猫らしくニャーンと鳴いた。
「他に質問はありますか?」
青空が俺たちの顔をそれぞれ見ながら言うと、勇気が学校でもないのに小さく手を上げた。
「あの、『気』のこと教えてもらえませんか」
「そうだった。俺もそれ聞きたい」
「分かりました」
『気』が身体と魂をつなぐ糸のようなものだと言う事は憶えている。でも、見えなくなったのに俺が死んでいない理由が分からない。
「我々が器と呼ぶ人間の肉体と魂とを繋ぐ細い金色の糸のことです。その糸が切れた時、初めて死んだということになります。この糸は細いとはいえ簡単に切れるものではありません。ただし、寿命が来た時と器が機能を停止した場合は自然に切れます。切れると言うか、離れるのです。器と糸がまるで同じ磁極になったかのように弾かれて離れます」
「寿命がきていない時の糸はハサミを使えば切れる…などという代物ではないのだよ」
ラゴ様は左手の人差し指と中指をハサミに見立てて、動かして見せた。
「切られていないのに、見えないとなると…多分、解されてしまったのだと思います。」
「ほぐされた?」
47へつづく


